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西行の死

西行物語 一生の回顧

 西行法師は静かに昔を回顧した。
 25歳の時、北面の武士をしていたが、戦乱の世にあって、数多くの死に接し、果てには親友が死に、その葬儀の夜、無常を痛切に感じて、出家したいという思いを断ち切れず、家へ帰ると、止める娘を蹴り、妻子家庭を捨てて出家した。
 それから、仏前に向かって髻(もとどり)を切り、俗世を出て、深山の奥の庵を尋ねて、八つの功徳を持つ水によって心を澄まし、九品浄土に思いをかけたのだった。その後、煩悩を振り払いつつ諸国を行脚し、山林にこもり、仏道修行を続け、
五十数年の時を過ごして来た。「懺悔し六根清浄の道に達するためには、三十一文字の歌を口ずさむ。これこそ悪心を去って仏道を達成させる道だ」と観念して、東山のほとりにある双林寺の傍らに、庵を結んで、窓外の月明りを友とし、仏の名を称えてきた。

 さて、西行は、その住居である御堂の近くに桜の木が植えられてあったので、同じことならこの花が盛りの時、しかも釈迦入滅の二月十五日の朝に往生をしたいと願って、次のように歌を詠んだ。

 ねがはくは花のもとにて春死なん そのきさらぎのもち月のころ

 そうして、この歌のとおり、1190年の2月15日(新暦3月31日)、往生を念じ、西方に向かって、「若人散乱心、乃至以一花、供養於画像、漸見無数佛、於此命終即 往安楽世界、阿弥陀佛、大菩薩、衆囲御繞住処」と経を唱えた。

 ほとけには櫻の花を奉つれ 我が後の世を人とぶらはば

 と歌を詠み、止むことない念仏の中、空には伎楽の音かすかに響き、香の匂いが漂い、念仏行者を迎える紫の雲がはるか上空にたなびいて、阿弥陀仏が来迎したようで、仏に従う菩薩たちの歓喜の儀式が進み、あらゆる人びとの耳目を驚かせて、ついに西行は満開の桜の下、如月の望月のころに往生の願いを遂げたのであった。

                                                                 《西行物語》

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