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見世物

    見世物

 昔、盛り場へ行くと、必ずといっていいほど、娯楽場があった。と言っても、遊園地とか温泉地に行けば、今でも、けっこうあると思う。まあ、娯楽場っていう言い方をすると、古い感じがするが、要するに、鉄砲撃って、ぬいぐるみなんかに当てて、落ちたら、そいつがもらえるなんていうやつとかお化け屋敷とか・・・。そういえば、余談だけど、去年、中国で、祭りでもないのに、街角でそいつをやってた。ぼくは、一緒にいた女の子にあげたくて、がんばった。ぬいぐるみを二つほど手に入れたっけ。
昔の娯楽場にはもうひとつ、必ずといっていいほど、あったのが見世物小屋だそうだ。ものの本に書いてるのを見ると、へんてこなのばかりやってたとか。
 そうそう、志ん生の話によれば、その見世物小屋には必ず呼び込みって言うのがいて、そいつが、小屋の前に立って、いろいろ言い立てて、客を引き寄せる。
  「さあ、ごらんなさい、この中に安置たてまつるは征夷大将軍源頼朝公のシャレコウベ近く寄ってごらんなさい」という口上があった。
 中へ入って見ると、確かにシャレコウベ、シャレコウベっていうのは、頭蓋骨のことだけど、それがある。あるにはあるが、ちょっと小さい。言い伝えによれば、頼朝の頭はでかかったとか。川柳に、「拝領の頭巾梶原縫い縮め」とかいうのがあって、つまり、梶原源太が源頼朝から頭巾を頂いたがそいつが大きすぎたので縫って縮めたとか。もうひとつ、つまり、いただいた頭巾が大きすぎたということで、やっぱり、頼朝の頭は大きいのだというわけだ。だけど、目の前のシャレコウベは小さい。というわけで、
  「おい、頼朝公の頭は大きかったそうだが、このシャレコウベ、やけに小さいんじゃないか」
  「これはご幼少のころので」
 こういういいかげんなのがあったそうだ。もっとひどいのになると、鬼娘というのがある。
 「さあ、ごらんなさい、世にも珍しい本当の化け物はこれだ。物心付いた頃から、生き物を取って食べるようになってが、とうとう、隣のうちの赤ん坊を食ってしまった。それを見た母親は頭に血が上ってあの世にいってしまった。父親は頭丸めて出家してしまった。その父親から預かった私が今日まで育ててきたわけだ。さあ、この鬼娘が日に一度は赤ん坊を食らうんだが、そろそろ、その刻限が近づいたよ。さあ、見ていらっしゃい。さあ、いらっしゃい。」
 こんな口上があって、そんな馬鹿なことがと思っても、そこは好奇心がみんな強いもんだから、ちょっと見てみようかと中へ入ってみると、正面に舞台があって、その真ん中に鬼娘が胡坐かいて座ってる。頭には角が生えてて、口は耳元まで裂けて、鋭い八重歯が除いて見える。見るからに鬼の娘だ。で、その鬼娘の周りには何の動物だかわからぬが、生き物の骨や皮のようなのがいっぱい散らかってる。この鬼娘が食ったあとだってことだろう。だんだん客がたまってきて、そろそろいいころあいを見計らって、小屋の小僧が赤ん坊を抱いて出てくる。鬼娘の前にその赤ん坊を置いていく。鬼娘は、そいつを両手でつかんで、独り言を言う。
 「こんだけ食ったあとだけど・・・」
 みんなシーンとする。
 「おいおい、早く食わねえか」とか言う客がいそうなものだが、性善説とかいうのが、あるくらいだから、言いたいけどなかなか言わないでいる。そこへ、だれかが言う。
 「よせよせ。腹いっぱいなら後にしろ」
 こいつは桜とかいう奴だ。桜というのは、咲くと、みんな、花見に出かける。人が集まってくると、散ってしまう。だから、人が集まると、いなくなる客寄せのことで、こういう見世物小屋には必ずいるらしい。他の客の中からも、いっしょに「そうだ、そうだ、寄せ寄せ」と声が出る。「ええ、食わないつもりなのか」って残念がる奴もいるとは思うが、勢いというものは恐ろしい。次第に「あとにしろ」って声が大きくなる。すると、鬼娘が赤ん坊を手から離して、
 「そんなに言うなら、後にしよう」
 こういうと、さっきの小僧がまた出てきて、赤ん坊をさっさと片付けて、下手に消えていくという寸法だ。
 さて、こんなひどい見世物小屋がたくさんある中で、浅草のある見世物小屋のだんなは、そろそろ、いんちきやめて、本物の化け物を見せたいと常々思っていた。で、情報を集めるため、ある日、酒屋で一杯やりながら、周囲の話に耳を傾けていた。すると、隣の席の旅人らしき男が酒屋の主人と妙な話しをしている。さっそく、その男を誘ってうち連れてきた。
 「さあさあ、こっちへあがってください。」
 「ありがとうございます。」
 「ねえ、だんな。全国を旅しているそうですね。さっき、あの店でだんなが話しているのを聞かせてもらいましたよ。いや、盗み聞きしたわけじゃありませんよ。なんとなく、聞こえたんです。おもしろそうな話をしてましたね。そう、お化けの話とか、男のような女の話とか、へえ、どうです。わたしにもいろいろ聞かせてもらえませんか。いえね、わたしは見世物小屋をやってるんですがね、ひょっとすると、うちの小屋で見せられるような、その何か、すごいのを、だんなが、知ってるんじゃあねえかと思いましてね」
 「はあ、そうですか。」
 「まあ、どうぞ、どうぞ召し上がってくださいよ。たいしたもの出せやしませんが。おい、酒はまだかい。早く持って来い。でね。どうですか。」
 「そうでございますね。化け物のように背が高い人間とか、それから、反対に小さいのとか、そんなのなら、存じておりますが・・・」
 「ふむふむ、なるほど、いいね。で、そんなのもいいんだけどね、もっと驚くような、怖いのはありませんかね。例えば、動物でも何でもいいんだ、顔は豚で胴体は牛だとか、頭はサルで胴体は馬だとか。ええ、人間の顔をした魚とか。頭が二つある生き物だとか。とんでもなく大きいサルだとか・・・。どうですかね」
 「そうでございますねえ。わたくしは、日本中行かない所がないくらい、あちこち見て参りましたが、そういうものにはちょっと・・・」
 「そうですか。ええ、じれってえな。何か思い出してくださいよ」
 「ええ、ございませんね。珍しい人にはたくさんお会いしましたが・・・」
 「じゃあ、人を食う人間なんてのはどうですか。会ったことありませんか」
 「そうですね。うわさにはきいたことございますが、そういう連中には近づきたくないですね」
 「本当にないですか」
 「ええ、ございませんね」
 「そうかい。おい、酒はもういいよ。・・・まあ、それならそれで、どうぞ、目の前にある飯でも食って、さっ さと帰っていただきましょうか」
 「はい、じゃあ、遠慮なくごちそうになります」
 「ああ、飯が足りなきゃ、台所へ行ってください。飯はまだたんとありますから、遠慮なく自分でよそって食べてってください」
 「ああ、思い出しました」
 「え、そうですか。で、どんな」
 「ええ・・・」
 「おい、酒早く持ってこねえか。寿司も早く」
 「ええ、そのなんとも恐ろしいものに出会いました」
 「ええ、ええ! 恐ろしいのですね。でも、恐ろしいってったって、そのお化けだと思ったら、木が風に揺れてたとか言うんじゃないでしょうね。それにあの、辻切りだとか、始末屋だとか、そんなんじゃいけませんよ」
 「いえいえ、それが、その、そういう怖いのじゃなくて・・・」
 「さあさあ、酒が来ましたよ。どうぞ、いっぱいやっておくんなさい。で、どんな怖いのでございますか」
 「一つ目なんです」
 「一つ目?」
 「ええ、目がひとつしかないんですよ」
 「ほう、で、どこで見なすったんですか」
 「そうですね。そこの街道をまっすぐ西へ行って、そうですね、百里くらいでしょうか。富士のお山が、後ろに見えるあたりに、古ぼけた茶店があるんですが、すぐ後ろに、目にご利益のある神社がございまして、その裏手に回って、森の中をどんどん、登っていったんです。」
 「どうしてまた、そんなところへ行きなすったんですか」
 「いや、茶店のばあさんの話では、山を越えると、隣町へ行く近道だと言うものですから・・・」
 「なるほど」
 「それで、しばらく登ったところで、大きな原に出まして、その原をずんずん歩いていきますと、いつの間にか日も沈みかけて、だんだんと薄暗くなるころでした。心細かったのですが、どこか家があれば、泊めてもらおうかとも思いまして、人家を探しておりましたが、一軒も見当たりません。ただ広いばかりの原でした」
 「はあ、それで」
 「それで、どこまで行っても何もないし、一足一足ごとに暗くなっていきます。心細さと不気味の悪いのとで、実に情けない気持ちになりました。寒くもないのに、身震いがして、自分で体を抱え込みながら、どうしたものかと思案しておりましたが、ふと目を上げると、目のまん前に、大きな一本松がありました。少々疲れておりましたから、わたくしは、松の木に、寄りかかってちょっと休もうかと思ったのですが・・・」
 主はひざを前へ進めて、前かがみになりながら、話を聞いていた。旅の男は茶をいっぱいすすってから、また続けた。
 「ちょうど、座ろうとしたその時、どこからともなく、お寺の鐘の音がぼ~~んと、聞こえて、あたりに生暖かい風が吹いて、ぞくぞくっとしたかと思うと、もう、駆け出して後へ引き返そうかと思いましたが、ふと、「おじさん、おじさん」と、わたくしを呼ぶ声がしました。わたくしは助かった、近くに人家があるに違いないと思いながら、そちらを振り向きました。そこには、赤い頭巾か何かをかぶった十歳ばかりの子供が立って、わたくしを手招きしておりました。赤っぽい頭巾でしたし、それに声からして、女の子だと思いましたが、とにかく、一夜泊めてもらおうと思って近寄って参りました。薄ぼんやりながら、顔が見えましたが、その顔が・・・そう何もないのでございます。のっぺらなんです。ただ大きな目が一つあるきりでした。もうたまりません。私は一目散に来た方角へ逃げ出して、必死の思いで帰ってきたと言うわけでございます」
 主人はここまで息を呑んでじっと聞いていたのだが、ふと、うなずいて、言った。
 「そ、それで、その場所は?」
 「はあ、ここから、街道を西の方角へ・・・」
 「そうでしたね。ちょっと待っておくんなさい。書きとめさせていただきますんで。おい、紙をもってこい。・・・はい、よろしいですよ。ええっと・・・まず、街道を西へ百里ほど行って、富士を後ろに見るあたりで、峠の茶店があって、その横に目にご利益がある神社があって、その神社の裏手に回って山を登ると、日が暮れるころには原へ出て、それをまっすぐ行くと、木があるっていうことでしたね」
 「ええ、ええ」
 「それで、木のあたりで、鐘がボ~~~ンとなって、生暖かい風が吹いたら、おじさん、おじさんっ、てえ声がきこえるんですな」
 「ええ、まあ」
 「ありがてえことだ。本当にありがてえ。さあ、さあ、遠慮しねえで、どんどん飲んでおくんなさいよ。それから、寿司も食いねえ、たらでもはまちでもどんどん食いねえ。天ぷらもどうだい。食ってってくださいよ」
 「いえ、もう、結構でございます。今晩は、ちょっと、参らねばならぬところがございまして、この辺で失礼をさせていただきます」
 「そうかい、そうかい、じゃあ、無理にとは言いませんよ。じゃあ、ちょっと待っておくんなさい」
主は奥へ行ったかと思うと、すぐ出てきて、懐紙に包んだ銭を旅人の手に包んで、どうぞ、こいつはわずかでございますが、お礼とさせていただきますよ。うちは火の車なんでございますが、今の話を聞かせてもらったからには、もう大丈夫だ。さっそく、その原へ行って小僧を捕まえてきて、見世物にすりゃ、大金持ちになれますからね。おっかあ、お客様のおかえりだ。見送りに出てこねえか」
 主は丁重に旅人を送り出してから、さっそく旅の支度を整えておいて、さっさと寝てしまった。

 翌朝、早いうちから、主は出かけた。昼ごろには半分ほど進んだ。茶店でお茶を飲み、団子を食ってから、さらに西へ向かった。富士山を後ろに見るあたりで、古ぼけた茶店を見つけて、店のばあさんに聞いてみた。なるほど、店の後ろに、目に聞く神社があるという。それでさっそく、神社の裏へ回り、山を登っていく。しばらく登ったところで、大きな原に出た。その原をずんずん歩いていくと、いつの間にか日も沈みかけて、だんだんと薄暗くなる。心細く感じたが、我慢をして、歩き続ける。人家は一軒も見当らない。旅人の言うとおりだと思いながら歩く。一足ごとに暗くなっていき、心細さと不気味の悪いので、実に情けない気持ちになる。それに身震いがして、体を自分で抱きしめた。すると、目の前に、大きな一本松があった。辺りを見回したが、何も出てこない。だが、ふいにどこからともなく、お寺の鐘の音がボ~~ンと、聞こえた。生暖かい風が吹いてきて、ぞくぞくっとしたかと思うと、「おじさん、おじさん」と、自分を呼ぶ声がして、そちらを振り向くと、赤い頭巾をかぶった十歳ばかりの子供が手招きをしている。しめたと思って、「おいで、おいで、いいものをあげるからね」とこちらから呼んだら、子供はつかつかと歩いてくる。主は、「待ってました」とばかりに子供を小脇に抱え込んで、一目散に走り出した。子供は「キャー!」と泣き叫ぶ。口を押させたが、遅すぎた。どこからか、「待ちやがれ」という大人の声がして、それから、だんだんその声が増えて、あちこちから聞こえる。大勢に追われているのはたしかだが、どこへ向かって走っているんだかわからない。夢中になってかけているうちに子供が重くなって、放り出した。それから、命だけは助かりたい一心でかけていったが、小石か何かにつまづいて転んでしまった。それで、周りを囲まれた。
 「おい、てめえ、いったい何をしやがるんでえ、うちの娘っ子さらいやがって、おい、おめえはどこの奴だ。代官所へしょっ引いていくだ」
 男たちはそう言って、主に縄をかけ、ぼこぼこ殴りながら、主を引きずるようにして連れていった。
代官所の白州に据えられた主はただ命だけは助かりたいと思いながら下を向いていた。
 「おい、おまえはどこの国の者だ。正直に答えよ。誘拐罪は重いぞ」
 どうやら、裁きを受けているらしいが、主は怖くて怖くて顔も上げられない。
 「これ、顔をあげよ」
 話し振りから、意外と物分りがいい代官かもしれないと思って、主はこわごわ見上げた。すると、目の前の高いところにいるのは、のっぺらの顔に大きな目がひとつっきりだ。びっくりして周りを見回すと、さっきまで自分を追っかけまわしていた連中もみなのっぺらの顔に目がひとつあるきりだ。これは一つ目の国にまぎれこんでしまった。大変だ。命だけは助けてくれと願った。だが、
 「代官様、こやつの顔をごらんください。目が二つもあります」
 「そうじゃのう。よし、調べは後回し、さっそく見世物小屋へ連れてまいれ」
                                                         了

追記:この話は落語の「一眼国」を翻案したものです。
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